・温度勾配下におけるソフトマター
界面活性剤を水に混入すると、自発的に集合体を形成することが知られています。 このように、ソフトマターは大きな集合体を形成し、これらの集合体は温度や濃度に敏感です。 一方、系に温度勾配を与えると、温度勾配が濃度勾配を誘起します(Soret効果)。 そこで、ソフトマターに温度勾配を与えると、温度・濃度が複雑に影響しあい、複雑な挙動が観察されます。 この現象は単に実験室で行っている複雑な実験というわけではなく、現実に起こり得ることなのです。 そこで、我々はこの問題について、ゲルの熱対流や膜の2次元的ソレー効果など、詳細に研究を行っています。
・イオン液体の溶解ダイナミクス
通常、塩は強いクーロン相互作用のため、融点が高温になりますが、イオン液体と呼ばれる物質群は常温でも液体で存在している塩のことを言います。 このイオン液体を水に入れると、通常と異なる溶解過程を示すことを我々が発見しました。通常、溶け合う2つの液体は界面を形成せずに拡散的に溶解します。 イオン液体の場合は界面を形成し、界面張力を保ちながら溶解します。この理由として、溶けるよりも速いタイムスケールで界面に構造を作っているためと考えられます。 この発見により、相分離過程などこれまで知られているものと異なることが予想され、これについて研究を行っています。
・細胞性粘菌の凝集過程における数理モデリング
細胞性粘菌は飢餓状態になると、生存作戦として、凝集することが知られています。 この凝集は放射状のパターンを形成することが知られていますが、そのメカニズムについては諸説あります。 これまでの説は粘菌の嗜好性を取り入れたものでありますが、凝集を説明するのに至っていません。 我々は全く別の角度からアプローチした数理モデルを作り、シミュレーションを行いました。 その結果、粘菌の凝集とほぼ同じパターンを形成するのに成功しました(Fig.1)。我々のモデルは粘菌の嗜好性、すなわち個体特有の性質が入っていません。 そのため、我々のモデルは無生物の凝集過程にも使うことが可能であり、実際にコロイド分散系においても同様のパターンを形成することに成功しました。 このように生態系を生体特有の性質を用いない数理モデリングし、それを無生物の系に応用することを今後も考えています。
Fig.1 Network pattern created by the model.